マルチ・ポテンシャライトの存在が組織を面白くさせるのかもしれない
「一つの専門性を突き詰めろ」、という言葉に苦しんだことはないだろうか。
この言葉しっくりくる人は、一つの専門性をひたすら突き詰める職人タイプか、あるいは、I字 ➔ T字 ➔ Π字のようなキャリア形成の仕方を多分想定しているのだろう。
でも、現実には、
- 全然関係の無い専門性を複数同時に持って価値を出している人
- いろんな知識を組み合わせてこれまでとは違う価値を出している人
- 組織の中ではそこそこの専門性だが趣味の活動がプロ並という人
と、様々な人が組織の中にはいるはずだ。
かくいう私も、一つの専門性を突き詰めるモデルからは外れまくって生きてきた人間だ。 大学では物理学を学び、低温量子物性の理論研究を大学院までしたかと思えば、 最初に入った会社では社会インフラ向けサーバーのカーネルの研究開発をし、 現在の会社ではゲームアプリの開発、Engineering Manager、エンジニア組織の取りまとめ、職能組織の取りまとめ、経営と、 傍から見たら良くわからないキャリアを歩んでいる。*1
このあたりの話は、以下の発表資料にもまとめている。
私からすると一つの仕事を10年も20年もやっている人を見ると、そこまで専門性を突き詰められる仕事を見つけられてうらやましく思うと同時に、 自分では絶対出来ないな(絶対途中で飽きちゃうな)と思ってしまう。
そんな私が最近、こんな本を見つけた。
マルチ・ポテンシャライト 好きなことを次々と仕事にして、一生食っていく方法
- 作者:エミリー・ワプニック
- 発売日: 2018/09/14
- メディア: Kindle版
マルチ・ポテンシャライトという言葉を聞き慣れない方がいるかもしれないが、この本の定義では、 「さまざまなことに興味を持ち、多くのことをクリエイティブに探究する人」だ。 自分がクリエイティブかと言われるとそれは議論の余地はあるが、まあ確かにいろんなことに興味を持ち、多くのことをやる人ではあると思う。
4つのアプローチ
さらに、この本ではこのマルチ・ポテンシャライトには4つのアプローチ(働き方)があるとしている。
アプローチ | 働き方 |
---|---|
グループハグ | ある一つの多面的な仕事に就き、その中でいくつもの分野を行き来する |
スラッシュ | パートタイムの仕事やビジネスを掛け持ちし、精力的にその間を飛び回る |
アインシュタイン | 安定した「ほどよい仕事」をしながら、情熱を注げる取り組みをほかに持つ |
フェニックス | 数ヵ月、数年ごとに業界を移り、興味を一つずつ掘り下げていく |
言われてみると、確かにこういう働き方をしている人が何人も思い浮かぶ。
この4つはどれか1つだけのアプローチに当てはめるのではなく、同時に複数のアプローチを満たしている人もいれば、 アプローチが変化する人もいる。 実際に私の場合は、これまでフェニックス・アプローチをやってきていて、今はグループハグ・アプローチをやっている。
組織にはいろんな人が必要だ
冒頭に上げた、専門性をひたすら突き詰める人は確かに必要で、そういう人たちが会社事業を円滑に進める上での軸になるのは間違いない。 一方で、それ以外の人も活躍する場を組織の中で作るのは大事なことではないだろうか。
Engineering Managerのように、エンジニアとしてのテクノロジーの知識を使いながら、ピープルマネージメントやプロジェクトマネージメント、プロダクトマネージメントをうまく組み合わせて意思決定をするグループハグのアプローチをする人もいる。
技術顧問のように、いろんな会社をパートタイムで参画しながら、各組織のテクノロジーの知識を引き上げる人もいる。
SNSのインフルエンサーのように、安定的な収益を得るために組織の業務をきっちりこなしながら、SNSやYouTubeではフォロワー何十万人という人もいる。
畑違いの業界の転職者のように、今いる業界では得られない知見をもたらしてくれる人もいる。
事業を継続する上で専門性はとても大事だし、成熟産業になればなる程その重要性が増していく。 でも、それは組織全体として硬直化の道を歩んでいく可能性がある。 いろんなタイプがいるからこそ、組織に味が出て、より面白い会社になっていくんだろうな。
*1:私個人としてはそれなりに考え抜いてやってきているのだが・・・w